元来、三河武士は姉川の戦い や 長篠の戦いでも有名なように精強軍団である。
家康が幼少の頃より人質として不憫な生活を送りその苦労をともにして来ただけあって
譜代の臣らの結束は他家の追随を許さない域に達している。
さらに織田、徳川、北条の包囲網によって遂に滅んだ甲斐の名門、武田家の遺臣らを
召抱え自らの家臣団に組み込む事によって更なる強化を遂げている。
そしてそのほとんどが俗に「徳川四天王」と呼ばれる本多平八朗、井伊万千代、榊原小平太、
酒井左近将監の4人の組下となっており、中でも「飯富の赤備え」と名を馳せた飯富虎昌、
山県昌景の二代にわたる最強軍団はほぼ無傷の状態で丸々「井伊の赤備え」として残った。
そして、その四天王のうち、榊原小平太を除く三人が、家康と供に現れたのである。
ただでさえ風前の灯ともいえる状態の明智勢にとって、もはや全滅は
免れないという宣告であった。逆に織田勢は更に意気盛んとなった。
しかし、信長だけは疑問を抱くような表情で徳川勢を凝視していた。
「解せぬ・・家康殿は堺を遊覧中のはず、しかも上洛の折にはあのような軍勢は
率いておらなんだはず・・・。はっ、まさか───」
信長がその状況下で想定できる最悪のケースを思いつきしその瞬間、
それが現実のものとなった。
当初、明智の背後につけていた井伊、本多、酒井の各隊が池田、丹羽・信孝隊に
攻撃を開始したのである。そしてその直後、大音声が響き渡った。
「我こそは徳川家康なり!この場を持って当家と織田家との同盟を解消させて頂く!
そして天下の逆賊である信長公を討ち果たすべく明智殿の御加勢に参った。
いざ、弓矢八幡照覧あれ!!」
なんと唯一無二の盟友としていた家康が反旗を翻し、光秀に加勢しようというのである。
目の前で起こっていた戦乱が凍りついていく・・・、
その瞬間を目にして家康はグフリと冷たい笑みを見せていた・・・。
第6章 厭離穢土 欣求浄土