二章 怪夢
今、勝家は越後春日山城を拠点に頑強に抵抗を続ける上杉景勝の討伐のために
甥の佐久間玄蕃盛政や与騎である前田又左衛門利家、同じく佐々内蔵助成政ら
とともに越中魚津城を囲んでいるのだが、先程の夢が気になって
どうも落ち着かないところに、前衛にいるはずの利家が訪ねてきた。
「おぉ親父殿、ここにいらしたか」
勝家の与騎達の多くは敬意と親しみを込めて勝家のことを「親父殿」と呼ぶ。
「又左か。如何した、上杉方に動きでもあったか」
「いや、そうでは御座りませぬ‥」
利家は少々引け気味に言う。
「ならばどうしたのじゃ、そこもとが自ら来たのだ、それなりの用件はあろう」
勝家が問うと、利家は軽くうろたえた様子で
「このような事を言上してよろしいものかとも考え申したが‥夢を見たので御座りまする」
「ゆ、夢じゃと!?」
勝家が素頓狂な声をあげる。
「して、どのような夢なのじゃ!?」
思いのほか勝家の反応が大きかった事を疑問に思いつつ、利家は夢の一部始終を話した。
勝家は言葉を失った。利家の見た夢は、自分が今見た夢と全く同じであった。
その事を勝家は利家に話すべきか考えた。しかし話した。
すると今度は、利家が素頓狂な声を発した。
「親父殿もその夢を!?な、なれば…まさか、まさゆ…」
利家が口にする前に勝家は割って入った。
「戯けたことを申すでないわ。信長様の言うキンカ頭とは日向(明智光秀)のことであろう、
 日向とて信長様に楯突く程に愚かではあるまいて。万が一そのような事が起こったとて、
 簡単に寝首を掻かれる信長様ではあるまい」
勝家は不安を払拭するように言い、
「もう夢の話は仕舞いじゃ。本日は魚津城を総攻めぞ、ぬかるな利家」
と残して己の陣へ引き返していった。
あとに残された利家は、どうも一抹の不安を拭い切れず、
重臣の奥村助右衛門(永福)を信長の安否確認のため、京に走らせたのであった。